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日本・ドイツ・イギリスの合作でついに日本凱旋公開!

手塚治虫 禁断の問題作

Introduction

禁断の愛とミステリー、芸術とエロス、スキャンダル、オカルティズムなど、様々なタブーに挑戦した大人向け漫画「ばるぼら」。この、”映像化不可能”と言われていた原作の映画化がついに日本で凱旋公開となる。第32回東京国際映画祭2019・コンペティション部門の正式招待をはじめ世界各国の映画祭を巡り大きな反響を呼んでいる本作、日本・ドイツ・イギリスから唯一無二のスタッフ&キャストが集結してできた奇跡の映画として、日本映画史に残る作品が出来上がりました。

愛と苦悩に満ちた大人の幻想物語

監督は手塚治虫の実子であり『白痴』(ヴェネチア国際映画祭 デジタルアワード受賞)『ブラックキス』(東京国際映画祭)など独特の映画美学により国際的に評価される手塚眞。撮影監督にはウォン・カーウァイ監督作品の映像美で知られるクリストファー・ドイルを招き、世界高水準のクオリティとなるアート・シネマが完成した。
異常性欲に悩まされている耽美派小説家・美倉洋介を演じる稲垣吾郎と、自堕落な生活を送る謎のフーテン女・ばるぼらを演じる二階堂ふみが本作で初共演。甘美で退廃的な異世界に全身全霊で臨み、共演陣には渋川清彦、石橋静河、美波ら国内外で活躍する豪華俳優陣が集結。

「ばるぼら」はデカダニズムと狂気にはさまれた男の物語である。手塚治虫

About The Comic

「ばるぼら」は、手塚治虫が手がけた大人向け漫画として『ビッグコミック』(小学館)で1973年(昭和48年)7月10日号から1974年(昭和49年)5月25日号まで連載された。
<ばるぼら>という名前のフーテンの少女と出会った作家・美倉洋介が、小説家としての悩みを抱えながら、成功し、名声を得、それを失い、破滅するストーリーにはさまれたオーブリー・ビアズリーの線画のような耽美的なカットや、ムネーモシュネーのような女神像、ポール・ヴェルレーヌの詩、西洋の哲学者や作家の名言、それに退廃的な芸術論が盛り込まれ、随所に文学好きや芸術好きの心をくすぐる仕掛けが施されている。ばるぼらは、美倉にとっては詩をつかさどる女神ミューズのような存在であり、芸術の神様は、ギリシャ神話の美の女神みたいなきれいなものじゃなくて、貧乏神の向こうを張れるぐらいみすぼらしい、少し素っ頓狂な神様なんじゃないか…?というのが、手塚治虫の芸術観として垣間見れる、異色の名作である。

Story

芸術家としての悩みを抱えながら、成功し、名声を得、それを失い、破滅していく人気小説家-美倉洋介。
アルコールに溺れ、都会の片隅でフーテンとして存在する、謎の少女-ばるぼら。

ある日、美倉洋介は新宿駅の片隅でホームレスのような酔払った少女ばるぼらに出会い、思わず家に連れて帰る。大酒飲みでだらしないばるぼらに、美倉はなぜか奇妙な魅力を感じて追い出すことができない。彼女を手元に置いておくと不思議と美倉の手は動きだし、新たな小説を創造する意欲がわき起こるのだ。彼女はあたかも、芸術家を守るミューズのようだった。

その一方、異常性欲に悩まされる美倉は、あらゆる場面で幻想に惑わされていた。ばるぼらは、そんな幻想から美倉を救い出す。魔法にかかったように混乱する美倉。その美倉を翻弄する、ばるぼら。いつしか美倉はばるぼらなくては生きていけないようになっていた。ばるぼらは現実の女なのか、美倉の幻なのか。狂気が生み出す迷宮のような世界に美倉は堕ちてゆくのだった・・・。

Cast

稲垣吾郎

稲垣吾郎 GORO INAGAKI(美倉洋介役)

コメント
1973年12月8日生まれ、東京都出身。91年CDデビュー。2018年4月に公開された主演映画『クソ野郎と美しき世界』(園子温監督、山内ケンジ監督、太田光監督、児玉裕一監督)が2週間限定上映ながら28万人を超える動員を記録。近年では、19年に主演映画『半世界』(阪本順治監督)が公開されたほか、舞台では「君の輝く夜に~FREE TIME,SHOW TIME~」(19)、好評につき今年赤坂ACTシアターにて再々上演が決定した「No.9-不滅の旋律-」などに出演。レギュラー番組では、NHK「不可避研究中」、TOKYO FM「THE TRAD」、文化放送「編集長 稲垣吾郎」、abemaTV「7.2 新しい別の窓」などがある。
二階堂ふみ

二階堂ふみ FUMI NIKAIDO(ばるぼら役)

コメント
1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。2009年、『ガマの油』(役所広司監督)でスクリーンデビュー。以降の主な出演作に映画『ヒミズ』(12/園子温監督)、『私の男』(14/熊切和嘉監督)、『リバーズ・エッジ』(18/行定勲監督)、『翔んで埼玉』(19/武内英樹監督)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(19/蜷川実花監督)、大河ドラマ「軍師官兵衛」(14/NHK)、「西郷どん」(18/NHK)、「この世界の片隅に」(18/TBS)、「ストロベリーナイト・サーガ」(19/フジテレビ)、など。また、最近は文筆やカメラマンの仕事にも精力的に取り組んでいる。2020年3月30日スタートのNHK連続テレビ小説「エール」にヒロイン関内音役で出演中。
渋川 清彦

渋川 清彦 KIYOHIKO SHIBUKAWA(四谷弘行役)

1974年7月2日生まれ、群馬県渋川市出身。98年の『ポルノスター』(豊田利晃監督)で映画デビュー。主な映画出演作は、『お盆の弟』(15/大崎章監督)、『モーターズ』(15/渡辺大知監督)、『下衆の愛』(16/内田英治監督)、『追憶』(17/降旗康男監督)、『榎田貿易堂』(18/飯塚健監督)、『ルームロンダリング』(18/片桐健滋監督)、『菊とギロチン』(18/瀬々敬久監督)、『高崎グラフィティ。』(18/川島直人監督)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18/豊田利晃監督)。『半世界』(19/阪本順治監督)、『閉鎖病棟』(19/平山秀幸監督)の2作品で第32回 日刊スポーツ映画大賞・助演男優賞、第34回高崎映画祭 最優秀助演男優賞を受賞。

石橋静河

石橋静河 SHIZUKA ISHIBASHI (甲斐加奈子役)

1994年7月8日生まれ、東京都出身。15歳から4年間のバレエ留学より帰国後、2015年の舞台「銀河鉄道の夜2015」 で俳優デビュー。初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17/石井裕也監督)で第60回ブルーリボン賞新人賞をはじめ数多くの新人賞を受賞。ほか出演作に映画『きみの鳥はうたえる』(18/三宅唱監督)、『人数の町』(20/荒木伸二監督)、舞台「神の子」(20/赤堀雅秋演出)など。20年4月、赤名リカ役を務めたドラマ「東京ラブストーリー」がFOD・Amazon prime videoで配信。

美波

美波 MINAMI (里見志賀子役)

1986年9月22日生まれ、東京都出身。深作欣二監督作品・映画『バトル・ロワイアル』(00)で映画デビュー。 映画、TV、舞台、CM と多岐に渡り日本で活躍し、近年では絵画の創作も行っている。2015 年には、文化庁「新進芸術家海外研修制度研修員」のメンバーに選出され、フランス・パリのシジャック・ルコック国際演劇学校に 1 年間在籍。 現在は、日本、フランス、アメリカを拠点に活動中。 第70回ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映された映画『MINAMATA』(20/アンドリュー・レヴィタス)に出演。

大谷亮介

大谷亮介 RYOSUKE OTANI (里見権八郎役)

1954年3月18日生まれ、兵庫県出身。86年「役者集団東京壱組」を旗揚げし、解散後は2001年「劇団壱組印」を旗揚げし、三軒茶屋婦人会にも参加。舞台演出も多数手掛ける。91年に第26回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。近年の出演作に舞台「イヌの仇討」(17/井上ひさし作、東憲司演出)や舞台「HAMLET-ハムレット-」(19/森新太郎演出)がある他、映画『純平、考え直せ』(18/森岡利行監督)、『ダンスウィズミー』(19/矢口史靖監督)、大河ドラマ「いだてん」(19/NHK)、「ストロベリーナイト・サーガ」(19/フジテレビ)などに出演。

片山萌美

片山萌美 MOEMI KATAYAMA(須方まなめ役)

1990年10月1日生まれ、東京都出身。ドラマや舞台、映画でも活躍。2012年ミス日本ネイチャー、第25回ワールド・ミス・ユニバーシティ・コンテスト日本代表に輝く。近年のドラマ出演作に、「いだてん」(19/NHK)、「おっさんずラブ-in the sky-」(19/テレビ朝日)、スペシャル時代劇「十三人の刺客」(20/NHK)等がある他、映画出演作に『万引き家族』(18/是枝裕和監督)、『富美子の足』(18/ウエダアツシ監督)、『いなくなれ、群青』(19/柳明菜監督)、『銃 2020』(20/武正晴監督)等がある。

ISSAY

ISSAY ISSAY(紫藤一成役)

静岡県出身。84年に結成し翌85年デビューしたDER ZIBET(デルジベット)のヴォーカルを務める。85年公開の手塚眞監督作品『星くず兄弟の伝説』で映画デビュー。この時、プロデューサーであった近田春夫氏に見初められ、DER ZIBETデビューへとつながる。DER ZIBETは他のどんなバンドとも違う圧倒的なオリジナリティで独自の地位を築く。退廃的な詩の世界観や、ジャンルに捕らわれない多様な音楽性に彩られた、独創的な美学を持ち、後のヴィジュアル系と呼ばれるバンドにも大きな影響を与えている。

渡辺えり

渡辺えり ERI WATANABE(ムネーモシュネー役)

1955年1月5日生まれ、山形県出身。劇作家、演出家、女優。舞台に映画、テレビ、音楽活動など幅広く活躍。78年に「劇団3◯◯」を結成。98年の解散後、現在は、「オフィス3◯◯(さんじゅうまる)」を主宰し、意欲作を発表している。2019年より、日本劇作家協会会長に就任。劇作家としては、83年「ゲゲゲのげ」で岸田國士戯曲賞、87年「瞼の女 まだ見ぬ海からの手紙」で紀伊國屋演劇賞を受賞した。近年の出演作に『カツベン』(19/周防正行監督)、『ロマンスドール』(20/タナダユキ監督)、『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(20/大林宣彦監督)がある。

Staff

監督&編集:手塚眞

監督&編集:手塚眞 MACOTO TEZKA

1961年8月11日生まれ、東京都出身。ヴィジュアリスト/映画監督。高校時代から映画制作を始め、ぴあフィルムフェスティバルほか数々のコンクールで受賞。81年、8mm作品『MOMENT』で話題になる。85年『星くず兄弟の伝説』で商業映画監督デビュー。91年ドキュメンタリー『黒澤明・映画の秘密』を演出。99年映画『白痴』でヴェネチア国際映画祭招待・デジタルアワード受賞。テレビアニメ「ブラック・ジャック」で2006年東京アニメアワードのテレビ部門優秀作品賞受賞。映像作品以外では、95年富士通のPCソフト『TEO~もうひとつの地球』をプロデュース。19か国で50万本のヒットとなる。01年「東アジア競技大会大阪大会」開会式の総合演出。浦沢直樹のマンガ『PLUTO』の監修を行う。AIを使って手塚治虫の漫画を描いた「TEZUKA2020」プロジェクトではクリエイティブリーダーを務める。宝塚市立手塚治虫記念館名誉館長など、手塚治虫遺族としても活動している。著作に「父・手塚治虫の素顔」(新潮社)他。

コメント
原作:手塚治虫

原作:手塚治虫 OSAMU TEZUKA

1928年11月3日、大阪府出身。開放的な家庭で、昆虫をこよなく愛し、機智に富んだ想像力豊かな少年に育つ。戦争体験から生命の尊さを深く知り、医学の道を志すも、一番望んだ漫画家、アニメーション作家の職業を選ぶ。手塚が創作した漫画とアニメーションは、第2次世界大戦後の日本の青少年の精神形成の過程に計り知れない役割を果たした。それまでの日本の漫画の概念を変え、数々の新しい表現方法でストーリー漫画を確立、漫画を魅力的な芸術にし、文学や映画など様々なジャンルに影響を与える。同時にTVアニメーションにおいても大きな足跡を残す。主な作品に、日本初の長編TVアニメーションシリーズ「鉄腕アトム」、長編TVカラーアニメーションシリーズ「ジャングル大帝」、2時間TVアニメの「バンダーブック」などがあり、アニメーションを大衆に深く浸透させた。手塚の作品は、世界中の子供達の夢を育み、同時に大人向けの漫画や長編アニメの制作など、あらゆる可能性にチャレンジし、彼の功績は、国際的にも大きな評価を得ている。彼の全ての作品には、手塚の永遠のテーマである生命の尊さが貫かれている。89年2月9日、その60年の生涯を閉じ、今もなお彼の功績は生き続けている。

撮影監督:クリストファー・ドイル

撮影監督:クリストファー・ドイル CHRISTOPHER DOYLE

1952年5月2日生まれ、オーストラリア・シドニー出身。幼年期に日本文学を多読し、18歳から商船員、石油採掘などの仕事に就いた後、中国にて映画撮影の仕事を始める。ウォン・カーウァイ監督作品のスタイリッシュな画面構成や色彩設計で有名になり、人気を得る。各国映画祭で60の受賞および30のノミネートという実績があり、94年『楽園の瑕』ではヴェネチア国際映画祭で金オゼッラ賞(撮影)を受賞。2000年『花様年華』ではカンヌ国際映画祭高等技術院賞を受賞している。アジアのみならずハリウッドの大作映画の撮影も手掛ける。ガス・ヴァン・サント、チャン・イーモウ、ジム・ジャームッシュ監督作品などに参加している。自身の監督作として、浅野忠信主演の『孔雀 KUJAKU』(98)、『パリ、ジュテーム』(06)の一篇『ショワジー門』などがある。近年、オダギリジョーの初長編監督作『ある船頭の話』(19)で撮影監督を務める。

脚本:黒沢久子 HISAKO KUROSAWA

新潟でアナウンサーとして3年勤務の後、シナリオ作家協会のシナリオ講座を受講。荒井晴彦に師事し助手として脚本に携わる。以降、映画、テレビなどで活躍。主な作品に『キャタピラー』(10/若松孝二監督)、『海燕ホテル・ブルー』(12)、『四十九日のレシピ』(13/タナダユキ監督)『ロマンス』(15)、『花芯』(16/安藤尋監督)などがある。

美術統括:磯見俊裕 TOSHIHIRO ISOMI

1957年生まれ。大学卒業後、様々な職業を経て、舞台美術・監督を手掛けるようになる。その後、映画美術担当として多くの映画に参加。主な作品には是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(99)『誰も知らない』(04)『花よりもなほ』(06)『歩いても 歩いても』(08)、石井岳龍監督『ユメノ銀河』(97)『五条霊戦記 GOJOE』(00)、崔洋一監督『刑務所の中』(02)『血と骨』(04)、『美しい夏キリシマ』(03/黒木和雄監督)、『バトル・ロワイアルII』(03/深作欣二監督/深作健太監督)、『殯の森』(07/河瀨直美監督)、『転々』(07/三木聡監督)、『ぐるりのこと。』(08/橋口亮輔監督)などがある。なお、手塚眞監督作品では『NUMANiTE』(95)『白痴』(99)『実験映画』(00)『ブラックキス』(04)を手がけている。

扮装統括:柘植伊佐夫 ISAO TSUGE

1960年生まれ。手塚眞監督『白痴』(99)、塚本晋也監督『双生児』(99)、庵野秀明監督『式日』(00)でヘアメイク監督、レオス・カラックス監督『メルド』(08)、滝田洋二郎監督『おくりびと』(08)などのビューティディレクションを担当。2008年以降、作中のキャラクター像を総合的に生み出す「人物デザイン」というジャンルを開拓。主な作品に、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)「平清盛」(12)、NHK大河ファンタジー「精霊の守り人」全シリーズ(16〜)、NHKスペシャルドラマ「ストレンジャー~上海の芥川龍之介~」(19)、映画『十三人の刺客』(10/三池崇史監督)、『シン・ゴジラ』(16/庵野秀明監督)、『翔んで埼玉』(19/武内英樹監督)など。待機作として初プロデュース作品『完全なる飼育étude』(20)がある。著作に「龍馬デザイン。」(幻冬舎)、「さよならヴァニティー」(講談社)、受賞歴に第30回毎日ファッション大賞/鯨岡阿美子賞、第9回アジアフィルムアワード優秀衣装デザイン賞など多数。

音楽:橋本一子 ICHIKO HASHIMOTO

神戸生まれ。武蔵野音楽大学ピアノ科卒業。在学時より音楽活動を始める。ノンジャンルでカテゴライズされない独自の音楽で作曲、演奏活動する。常に音楽界の先端を走り続け、海外での活動も含めその音楽性は高く評価されている。80年に、YMO「テクノポリス2000-20」へのゲスト参加をはじめ、高橋悠治、菊地成孔、手塚眞など内外の多彩なアーティストとノンジャンルに共演をかさねる。その他、映画やヴィデオのサウンドトラックやCM音楽、アーティストプロデュース、アレンジも多数手がける。

Production Note プロダクション・ノート

手塚治虫、生誕90周年記念作品。47年の時空を超えて、ついに日本凱旋公開!
「ビッグコミック」(小学館)で1973年から1974年まで連載されていた漫画「ばるぼら」。連載当時から、この物語の主人公、耽美派小説家・美倉洋介のモデルは、手塚治虫本人ではないかと言われていた。本作連載開始時の手塚は当時44歳、その10年前の1963年にはすでに日本初のテレビアニメシリーズ(30分枠)「鉄腕アトム」を手がけており、1973年以降も彼は「ブラック・ジャック」など手塚自身の代表作とも言われる漫画を次々と生み出していた。手塚治虫の“人間に潜む変態性”“芸術と大衆娯楽への葛藤”“ユニ・セックスへの憧れ”などが詰まった本作は、ちょうど本作連載開始と同年の1973年に、手塚が経営していた虫プロ商事と虫プロダクションの倒産や、自身の億を超える負債を抱え、鬱屈していた手塚のあまりある才能の鬱憤が詰まった作品ではないかと思わされる。まさに、自身の才能をもてあまし、様々な疑念に苛まれる孤独な男・美倉と当時の手塚がリンクされてしまう。
息子が初めて手がけたのは、父・手塚治虫の禁断の問題作。
そんなエロティックで奇怪な、ストーリーは、愛と苦悩に満ちた大人の幻想物語として、今まで映像化不可能と言われていた。2018年11月20日、手塚治虫生誕90周年を記念して日本のアニメ・漫画界の重鎮たちが集まったパーティーにて、手塚治虫の実子である手塚眞が、主役の美倉と謎の少女・ばるぼらに抜擢した稲垣吾郎と二階堂ふみと3人で本作を映像化することを世界発表した。手塚眞は、学生時代から独自の映像美で注目されており、『白痴』(1999年ヴェネチア国際映画祭正式出品 デジタルアワード受賞)や『ブラックキス』(2006年東京国際映画祭正式出品)など、唯一無二の世界観を作り上げることに定評があったが、まさか実の息子が映画化に選んだ作品が『ばるぼら』であったことで、発表時は大きな話題を呼んだ。そして、本作の撮影監督にはウォン・カーウァイ監督作品の映像美で知られるクリストファー・ドイル。まさに奇跡の1作に仕上がった。
今、描かれるべき理由。今、観るべき理由。
漫画「ばるぼら」では、1973年当時の混沌とした新宿のネオンの影の下で、みすぼらしい格好で酒にまどろむばるぼらの様子が描かれている。一方、映画の中の時代背景は現代らしきも、過去の日本の様な風景も入り混じっており、全くの異次元に入り込んでしまう。本作では街を彷徨う美倉とばるぼらの様子が描かれているが、新宿・歌舞伎町が撮影に使われている。ここ数年は海外の旅行者増加によって、日本旅行の“聖地化”されていたが、実はここ歌舞伎町は新宿の中でもあまり風景が変わらない日本の風景の一つでもある。手塚眞は、こういった日本の今の街並みを使いながらも、時代設定を感じさせない世界を作り上げることに誰よりも長けている。手塚眞が作り上げる世界観によって、この作品の根底に眠る、父・手塚治虫が描きたかったであろう、<”想像“と”創造“の間に潜む狂気>を、より際立たせているのだった。この映画の世界は、もはや映画館という日々の社会と孤立した空間に埋没しなければ味わえない、まさに映画の蜜である。そして、奇しくも本作の公開年である2020年、東京2020オリンピック・パラリンピックが延期となった後の消化不良気味な日本を感じながら、本作に出会ってしまったこと、これは観なければ通ることのできない芸術への道である。